ランニングを始めたばかりの方や、自己ベスト更新を目指す方、どんなトレーニングが効果的か悩んでいませんか?ダニエルズのランニング・フォーミュラに基づく5つのトレーニング方法(Eランニング、Mランニング、Tランニング、Iトレーニング、Rトレーニング)は聞いたことがあるけれど、正確に理解していない方も多いのではないでしょうか。実際、ただ走るだけでは期待通りの成果が得られないことが多いのです。
ダニエルズの5つのトレーニングタイプはそれぞれ異なる目的を持っており、効率的なトレーニングには欠かせない要素です。例えば、Eランニングは負担が少なくケガの予防や基礎作りに役立ち、Mランニングはマラソンのレースペースで走り、レース当日のための自信を高めます。Tランニングは乳酸処理能力を高め、持久力を向上させるために最適なトレーニングです。また、IトレーニングはV̇O₂maxを最大化し、心肺能力を大幅に向上させます。そして、Rトレーニングはスピードやランニングエコノミーを向上させ、より効率的な走りを実現します。今回は、これらの5つのトレーニングを理学療法士としてランニングを研究してきた私がわかりやすく解説し、それぞれの目的や効果を詳しく説明します。

これらの方法をうまく組み合わせることで、持久力やスピードを向上させ、ケガのリスクも減らしながら、効率的なトレーニングを実現できます。
Eランニング(イージーランニング)

トレーニングの目的
Eランニングは、負担の少ないランニングです。このトレーニングの主な目的は、ケガの予防や基礎作りであり、特に休養後のランニング再開時やトレーニング初期に適しています。
また、楽なペースでのランニングは心身への負担が少なく、リカバリーや持久力向上にも効果を発揮します。HRmax(最大心拍数)の約60%の強度で心臓の収縮力が最大になるため、適度なペースでのランニングが心筋の強化にもつながります。
Eランニングの主な効果
この効果を最大限に引き出すためには、30分以上の継続が推奨されます。運動時間が長くなるほど効果が高まるため、無理のない範囲で少しずつ距離を伸ばしていくとよいでしょう。ただし、1回のランニングの上限は150分とし、無理のない範囲で行うことが大切です。
Eランニングの実施方法

Eランニングは、V̇O₂maxの59~74%、HRmaxの65~79%の強度で行います。
ウォーミングアップやクーリングダウン、速いランニングのリカバリージョグもEペースで行います。また、休養もトレーニングの一部と考え、無理に高強度のトレーニングを増やさないことが重要です。
Eペースの目安は、1マイルのレースペースより1マイルあたり2~3分(1kmあたり約1分15秒~1分52秒)遅いペースであり、無理なく走れる強度です。
Mランニング(マラソンペースランニング)

トレーニングの目的
このトレーニングの目的は、レースペースに慣れることと、給水の練習を行うことです。Eランニングと比較すると強度は高いものの、生理学的な効果には大きな違いはなく、長時間走る自信をつけることが主な狙いとなります。
Mランニングの実施方法

Mランニングは、マラソンレースの設定ペースで走るトレーニングであり、V̇O₂maxの75~84%、HRmaxの80~89%の強度で行います。
また、エネルギーの使い方を工夫することで、トレーニング効果をさらに高めることが可能です。たとえば、時にはエナジードリンクを摂らずに走ることで、筋グリコーゲンの消費を抑え、脂肪代謝の割合を増やすといった方法が考えられます。ただし、水分補給は適宜行い、これは本番での給水練習としても有効です。
Tランニング(Threshold/閾値ランニング)

トレーニングの目的
Tランニングは、「心地よいきつさ」のペースで走るトレーニングであり、血中乳酸を効率的に処理し、持久力を向上させることが目的です。
Tランニングの実施方法

強度の基準は、十分にトレーニングを積んだランナーならV̇O₂maxの85~88%(未熟なランナーは80~86%)、HRmaxの88~92%が目安となります。
Tランニングには2種類の方法があり、1つは「テンポランニング」で、約20分間Tペースを維持して走る方法です。もう1つは「クルーズインターバル」で、Tペースを短い休息を挟みながら複数回繰り返します。この2つの違いは持続的か断続的かということ。よって運動する時間の合計はクルーズインターバルのほうが長くなります。例えば、テンポランニングを20分間走れる場合、クルーズインターバルで合計30分まで増やすことが可能です。休息時間は疾走時間の約1/5が目安です。
練習量は週間走行距離の10%以下に抑えることが推奨されます。
TランニングはMペースランニングと組み合わせて、マラソンのペース変動に適応する力を養う練習にも役立ちます。また、クルーズインターバルでは、1.6km走った後に1分休息を挟んで複数回繰り返すと効果的です。
Iトレーニング(インターバルトレーニング)

トレーニングの目的
Iトレーニングは、V̇O₂maxを最大限に高めることを目的とした高強度トレーニングです。
Iトレーニングの実施方法
研究によると、V̇O₂maxレベルで約11分間運動できるため、疾走時間は3~5分に設定します。疾走後は短い休息(1〜2分)を挟み、次の疾走に備えます。休息時間が短いため、次の疾走ではV̇O₂maxに早く到達でき、効果的なトレーニングが可能です。疾走ペースは自分のV̇O₂maxペースに近いもの(例:1kmあたり3分26秒)で設定します。トレーニングの量は、1回のセッションで10km以内、または週間走行距離の8%を超えない範囲で行います。
また、高地トレーニングなどでは、速度にこだわらず「きつい」と感じるペースで行うことも効果的です。ステップ・カウント法など、疾走とジョギングを交互に行い、時間ベースで負荷を管理する方法もあります。
Rトレーニング(レペティショントレーニング)

トレーニングの目的
Rトレーニングは、無酸素性能力、スピード、ランニングエコノミーの向上を目的としたトレーニングです。
Rトレーニングの実施方法
休息時間はRランニングの2~3倍(時間基準)を推奨し、リカバリージョグを同距離行う方法もあります。1回のRペースの総距離は最大8kmまたは週間走行距離の5%の少ない方とし、週間走行距離が多くても8kmを超えないようにします。また、疾走時間は基本的に2分以内にとどめるべきであり、適切な距離は200〜600mです。もし2分以上ペースを保った時に、必ず最大心拍数に到達する強度。
トレーニングは走行距離ではなく、各強度に費やした時間で考えるべきで、遅いランナーは本数を減らすことで速いランナーと負荷を均等にするのが望ましいです。
まとめ
ダニエルズのランニング・フォーミュラに基づいた5つのトレーニングを適切に組み合わせることで、効率的なランニングプログラムを構築できます。

目的に応じたトレーニングを取り入れ、計画的に練習を進めていきましょう。
参考文献
- ジャック・ダニエルズ.『ダニエルズのランニング・フォーミュラ 第4版』.ベースボール・マガジン社,2022.
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